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酸性雨被害で最近、ニューヨーク州北部のアディロンダック自然公園に注目が集まっている。
230万ヘクタールもあるこの公園の中心部は、自然を手つかずに残す「原生自然保護地域」に指定され、厳しく保護されてきた。
公園内の無数の湖や網の目のように張りめぐらされた大小の川は、今なお原始の姿をとどめている。
1980年の冬期オリンピックが、この公園内のレーク・プラシッドで開催されたことから、その名前も知られるようになった。
この一帯で異変が静かに進行し始めたのは、1960年前後からだった。
以前はマスが群れをなし、バス(スズキの一種)やカワカマスがいくらでも釣れた。
ところが、このころから釣り人に開放されている公園内の湖や川で、魚が次第に釣れなくなってきたのだ。
原因探しが始まった。
「付近で伐採していた木材業者が木を伐り過ぎた」「いやビーバーが流れをせき止めたためだ」「肉食性のイエローパーチ(スズキの一種)がはびこり過ぎて他の魚を食べてしまったのだ」と、議論が続いた。
そのうちに、このビーバーもパーチも次々に姿を消していった。
やがて、夏の夜を賑わわせたホタルも死に絶え、カエルさえ鳴かなくなった。
烏のカワセミやツバメの飛ぶ影もない。
高い梢を仰ぐと、葉を失った先端の枝が骸骨のように空に突き出している。
ニューョーク州漁業局の調査では、公園内の大小一1800の湖沼のうち約300湖でまったく魚が見つからなかったという。
75年から続けられている調査で、湖の水は正常値の10倍以上も酸性度が高いことが分かつてきた。
湖の水はpH4〜4・5を示し、4〜5月の雪解けのときには、pHが4以下を記録することも珍しくない。
ここを調査したコーネル大学のグループのレポートは「真っ先に湖岸の地衣類が消え、次に湖底の水生植物や昆虫が死に絶え、食物連鎖がずたずたに断ち切られて、餌がなくなっていった。
その上、魚は酸性の水にエラを冒されて、皆殺しになった」と述べている。
このアディロンダックから西に200キロも離れていないバーモント州のグリーン山脈のキャメルズバック山でも、樹齢数百年、高さ数十メートルのエゾマツが、次々に枯れては倒れ始めた。
この一帯では、すでに半数以上の樹木が枯死して、不気味な姿をさらしている。
同じころ、ニューョーク港に立つ「自由の女神」がぼろぼろになっていた。
ひょんな事件から、これが明るみに出た。
80年に、イギリスの2人の登山家が、捕まっている黒人過激派ブラック・パンサーの指導者の釈放を要求して、デモンストレーションのために女神像によじ登った。
そのときに外壁に傷がつき、ニューヨーク市公園局は専門家に頼んで調査をした。
その結果、傷は登ったためでなく、コンクリート製の像の外側に薄く張った銅板が、腐食してぼろぼろになっていたためと分かった。
これまで、酸性雨の影響は東部に集中していたが、最近被害は次第に南下している。
ノースカロライナ、サウスカロライナ、テネシー州にまたがるグレートスモーキー山地でも、酸性雨を浴びて森林の被害が急速に広がっている。
環境保護団体「フレンズ・オブ・ジ・アース(地球の友)」などがまとめた報告書(84年)によると、フロリダ、ルイジアナ、ジョージア、アラバマなど南部13州の大部分の地域で、雨の酸性度がこの30年間に、10倍から10倍にもなり、pHの平均値は4・4を記録している。
さらに、光化学スモッグは問題になっていても酸性雨の被害は目立たなかった西部でも、被害が広がっている。
ヨセミテ国立公園、グランドキャニオン国立公園などがあることで知られるシエラだ。
調べてみると、ニューヨークのセントラルパークの中央に立っている古代エジプトのオベリスクも、西向きの面は傷みがひどくて表面の絵文字がほとんど読めなくなっていた。
このオベリスクは「クレオパトラの針」と呼ばれ、1890年代にエジプトから運ばれた。
3500年もの長い時代を耐えてきた石塔も、20年足らずの問に、西から吹く汚染大気にさらされて腐食してしまったネバダ山脈へも汚染大気が吹きだまり、雨の酸性値が次第に強くなっている。
山中のセコイア国立公園の14の湖で、最近魚の大量死が問題になっているのも、酸性雨が一因とされている。
環境保護局(EPA)などは、建造物に対する酸性雨の被害総額を試算しているが、85年現在で17州で50億ドル(8000億円)にも及ぶという。
ビルの傷みが早い、塗装がすぐはげる、窓わくが腐食するといった被害である。
このほか、酸性雨による視界不良で航空機の延着、観光収入の減少などの被害も20億ドルはあるとみている。
むろん、農林漁業への被害はこの何十倍かにのぼるだろう。
カナダを襲う酸性雨カナダの酸性雨も米国に劣らずひどい。
最初はオンタリオ州だった。
70年代に入って、雨の後や雪解け時にマスやバスなど魚が水面に大量に浮き上がっている事件が相次いで起こるようになった。
このような現象が、カナダ南西部の米国境に近い一帯に広がり、今では同州の4000の湖沼が酸性化して、次々に魚や他の生き物が姿を消している。
隣のケベック州でも1300の湖沼で急速に水のpHが落ちてきて、魚の全滅する湖が増えている。
大西洋のサケが大挙してのぼってくることで知られるノバスコシア州で、主要な9つの産卵河川にサケがぱったりのぼってこなくなったのも、70年代末以来のことだ。
いずれも酸性雨によるものだった。
とくに雪解け時の被害が大きいのは、雪に溶けていた酸性物質が一斉に河川に流れ込むためだ。
カナダを汚染しているこの酸性雨の多くは、米国側の5大湖周辺の工業地帯からのものだ。
とくに火力発電所、精錬所から吐き出される亜硫酸ガス、窒素酸化物が主犯だとカナダ側は指摘する。
70年代に入って公害反対運動がわき起こり、工場側は工場周辺の汚染濃度を下げるために、競って高層煙突を建てた。
70年代以前、米国東海岸には150メートル以上の煙突は100基もなかった。
それが85年には、火力発電所を中心に500基を超えた。
この結果、高層煙突で周辺の汚染濃度こそ減ったが、かえって広い範囲に大気汚染を拡散する結果になった。
カナダ政府は70年代来、排煙規制を強化するよう米国に再三迫ってきた。
環境保護に熱心だった。
カナダ環境省の調査によると、酸性雨の影響は一10万〜150万平方キロ、つまり日本の国土面積の数倍に及んでいる。
86年に各州政府の合同調査委員会を組織して全国調査した結果では、被害はオンタリオ州の北部・中部からケベック、ノバスコシア州にかけてひどく、さらに、酸性化は地下水にも及んでいることが判明した。
全国で調査対象になった30万の湖沼のうち、一万4000の湖沼がすでに死滅しており、4万の湖沼でも被害が深刻化していた。
同環境省の試算でも、経済的な被害は年間200億米ドル(3兆2000億円)に達するとしている。
一部の湖では、空から石灰を撒いて中和をはかっているが、一時的な効果しかないようだ。
政府も「今世紀内に、4万8000の湖沼が死滅する」と対策の緊急性を訴えている。
米側は、厳しい排出規制に反対する産業側の意向があり、しかもカナダが一方的に被害者というのはおかしいという反発もある。
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